『...はぁ。特に奇を衒ってるようにも見えないけど。』
「そういうことじゃなくて。特殊な部分が無ければいいわけじゃない、
一般的で平均的かつ秀でた才覚もなければ酷く劣った面もない。誰からも受け入れられるノーマル・パーソンになりたいわけだ。』
『うん、それってつまり私や他の人が『変わってるな』って感じない人のことを指してるんじゃないの?』
「それは全く持って違う。」
「例えば電車に乗ってるとしよう。目の前にとんでもない奇行を繰り広げる人物がいたとする。そいつがいきなり告白してきたとしたら、君はOKを出すか?」
『多分、いや絶対出さない。』
「んじゃその隣の普通のサラリーマンも同じく、君に告白してきたとしたらどうだ?」
『断ると思う』
「どうしてだ?そのサラリーマンは特に変な行動も起こしていないし、何ならさっき老人に席を譲った。優しさに傾いた楕円形のグラフを持つごく一般的な人物じゃないか。」
『んん... 別に変わってなければいいってわけじゃないかな』
「だったら『変わっていなければ普通』って君の意見は矛盾があるんじゃないのか?」
『...まぁ確かに。』
「しかしながら君がそういった発想に至るのも無理はない。案外普通の定義は難しいんだからな。」
『でもさ、何で普通になりたいの?』
「普通でいれば何処へ行こうと誰に会おうと、最高に迅速で円滑なコミュニケーションをとることが出来るからだ。」
『なんかさっきのくだりを聞いてると、単に人から好かれたいだけな気がしないこともないけど。』
「...」
『ね、本当は他人から好かれたいんじゃないの?』
「...いや、そういうことじゃない。ただ普通になりたいだけだ。」
『あなたは最近人目ばかり気にし過ぎてる。自分が嫌われないようにって、常にメンタルの護身役ばかりに努めてる気がして。』
「それは...」
『世間体を気にせず気ままに過ごしてもいい、そんな考えもあるんだって感じながら生きてみればいいのに。』
『ただでもね、全く人目を気にしなくなるのもそれはそれで問題だから。』
『『こうしないといけない』って縛りも多少は持ちながら、楽に気ままに暮らそうって気も同じく携えて過ごせばいいと思うよ。』
「はい...」